ペースト状です

たぶん、そういうことです。

人権を脅かす帝国主義とは『精読 アレント『全体主義の起源』』第三章

『精読 アレント全体主義の起源』』第三章

第三章の帝国主義国民国家体制の崩壊の解説です。

 

とても大切なことは誰もが人権を持っているということです。そしてそれを保障する世界が必要です。

今日われわれが 「人権 」と呼ぶべきものは 、そのような 「人間の条件 」の一般的性質のことなのである 。人間が人間として生き 、活動することのできる世界を保障することこそが 「人間の権利 」の実質でなければならない 。(位置2018)

第二次世界大戦の中で、人間の権利がユダヤ人から奪われていくことになります。

その理論というのが、「人権」を逆説的に利用する方法です。

「人権 」という観念は 、 「人間一般 」の存在を想定するものであるが 、実のところわれわれが見出したのは 、 「いまなお人間であるということを除けば 、他のいかなる資格も特別の関係も事実として喪失してしまった人々 」であった 。抽象化され 、一切の具体的関係を剝奪された 、いわば裸の人間一般のうちには神聖なものなど何もないことを世界は発見したのである(位置2030)

衣服も地位も、名前すらも放棄させられたときに、人は何者でもなくなるということが発見されたのです。

この発想はやばいです。しかし実際に起こったことですので、やばいとかいっていられません。この辺りの話はフランクリンの『夜と霧』が詳しいです(これはいつか書評を書きたい)。

 

この「人権の破棄」は全体主義運動が全盛期のときに起こります。どうしたらその状態になったのかを第三部に書かれていることを使いながら、話していきます。

 

アレントの解釈では、

全体主義帝国主義反ユダヤ主義

ということになります。このエントリーは帝国主義の話。

 

帝国主義

帝国主義の目指すところは国民国家それ自身の利益でもないし 、対外的な征服や領土拡大による帝国の建設でもない 。それでは帝国主義の目標は何か 。端的に言えば 、それは権力の拡大そのものである 。(位置1060)

権力の拡大が目標です。ただただ、大きくなること。それだけです。しかし、富や名声が大きくなることへの欲望に人間は負けてしまうこともある。

帝国主義支配の二つの装置のうち 、人種は南アフリカで発見され 、官僚制はアルジェリア 、エジプト 、インドで発見された 。(位置1512)

 

帝国主義のキーワードは「人種」と「官僚制」

南アフリカの開拓によって生まれる当たり前のような人種差別と、発展のためなら人権すら踏みにじることができる官僚制が増長し、うねることで帝国主義が拡大します。

 

舞台はアフリカ

南アフリカが 「帝国主義の文化的発祥地 」となったのは 、まさにそれが 「余計者の土地 」における余剰人員と余剰資本の結合だったからである ( 4 ) 。(位置1101)

モッブが余剰人員として、アフリカに流れ込みます。さらにお金を求めてブルジョアジーも余剰資本としてアフリカに流れ込みます。両者とも欲望のためという目的が合致して手を取り合います。そして、アフリカ開拓に着手します。

そこで出会うのは未開拓人種。その自然さと野蛮さゆえに「違う」ことへの恐怖を覚えます。

(この前提にオランダ系の白人で先にアフリカ大陸に入植しているブーア人が原住民と同じように生活する自然化がありますが割愛)

およそ文明人にとって理解不能な人間に直面したときの恐怖は 、 「人種 」の観念に圧倒的なリアリティを与えることになったのである ( p . 1 8 5 /一〇五頁 ) 。(位置1364)

ここで「人種」の概念が生まれます。そして興味深いのは次の引用。

黒人は自分たちが人間としての特徴を頑強に主張し続けたので 、 『白人 』は自分たちの人間性を再考せざるをえず 、自分たちは人間以上の存在で黒人にとっての神々となるべく神に選ばれたのだと考えることにしたのである 。(位置1407)

違うことを受け入れず、相手が「人間」であることを主張したので、自分たちをさらに上の存在におく現象がおきます。階級をつくっていくのです。そして以下のようになります。

南アフリカの人種社会はモッブたちに 、恵まれない集団でも暴力をもってすれば自分に従属する階級をつくり出すことができるし 、そのためには革命は必要ではなく 、ただ支配階級の集団と結託すればよいこと 、外国の民族 、遅れた民族はそうした方法をとるための格好の機会を提供してくれるのだという 、困惑させるような予兆をともなう教訓を与えたのである 。(位置1487)

ちなみにこの余波は、アジアにも響いていきます。遅れた民族という扱いで。

 

もう一本の柱、官僚制

人種は下からの突き上げ。官僚制は上からの押し付けです。

帝国主義がもたらした今一つの産物である官僚制について検討しておかねばならない 。 「人種 」がいわばヨ ーロッパの隅々から来た 「文明の最低の分子 」を惹きつけたとすれば 、官僚制は 「その最良の知識層 、しかもしばしば最も明確な視野をもつ者たち 」を引き寄せたのである ( p . 1 8 6 /一三六頁 ) 。(位置1503)

とっても単純です。自分の国を良くしようとした人たちが、もっともっと良くしようと手段を選ばずに制服をしていきました。

南アフリカにおける帝国主義政策を主導したセシル ・ロ ーズの巨大な虚栄も 、クロ ーマ ーの義務感も 、たどりついた結論は同じであった 。すなわち 、拡張は特定の国に対する欲望のためではなく 、さらなる拡張のための布石に過ぎないことを彼らは発見したのである 。(位置1561)

 

全体主義へとつながっていく

「人種」と「官僚制」は植民地で発見されました。

そして同様のことがヨーロッパで展開をしていくのです。そのための下地として前半部がありました。

ナチズムとスタ ーリニズムは 、中欧 ・東欧の 「民族混合ベルト地帯 」を基盤に生まれた 「汎民族運動 」をそのイデオロギ ー的源泉としている ( 1 6 ) 。(位置1607)

汎民族運動で虐げられた人種がユダヤ人。そして、ナチズムやスターリニズムという圧倒的な官僚制が完結します。

 

第1次世界大戦後の混乱で、多くの無国籍者が生まれます。

国際連盟は「マイノリティ条約」という形で民族同化運動を進めようとします。このときに焦点になったのが、敗戦国ドイツのドイツ人と「抜きんでたマイノリティ」をもっていたユダヤ人。

ドイツの中からヒトラーがその力を示してきたときに、無国籍者をどうにかしようとなります。そして、ユダヤ人がそのターゲットになりました。これが、全体主義につながっていきます。

アレントにとって全体主義の本質はまさに既存の国家と政党システムの破壊にあった 。全体主義にとって 、一党独裁のそれも含めてあらゆる国家は 、拡大し続ける運動の絶えず変化する要求の障害になる 。(位置1834)

 

感想

どうしてユダヤ人だけが。という思いをアレントが強くもっていたことを、このエントリーの冒頭にあげた引用で感じました。次のエントリーは全体主義運動です。

今後の展望としては、この本の内容がひと段落したら書評を書いていきます。今回は解説という形をとってしまいました。このアウトプットはためになりますが、ハードさがやばい。

書評を積み重ねていきたいです。もちろん、「これ!」という本があれば、こんな感じでまとめます。