ペースト状です

たぶん、そういうことです。

全体主義が行き着くさきとは?『精読 アレント『全体主義の起源』』第五章

『精読 アレント全体主義の起源』』第五章

第五章「イデオロギーとテロル」解説

 

全体主義が行き着く先

人を壊す全体主義という運動が、その運動を続けていった先にどうなっていたのか、そして何を産み落としていったのかがこの章のテーマです。

ここでアレントが問うているのは全体主義体制とはいかなる体制なのか 、ということである 。すなわち 、全体主義の本質が運動にあるとしても 、たんなる無秩序や混乱とは異なる何かであるとすれば 、それはいかなる意味での秩序を形成するものなのか 、いいかえれば 、旧来の政治体制とはいかなる点で異なるのかという問題である 。(位置2746)

結局のところ全体主義は完成することがありませんでした。

全体主義のもつ含意のすべてをわれわれは知らないし 、そうした機会が来ることをわれわれは決して望みはしない 。(位置2708)

そしてそれを理解することはできませんでしたし、それは望まれることではありませんでした。

全体主義の完成というものが存在するのであれば、全てが全体主義に支配された世界においてです。そこをナチズム、スターリニズムは目指していたのです。

 

全体主義が産み落としたテーゼ

全体主義が全てを破壊していく運動であることを以前のエントリーで書いています。そしてそれは、人を人であることからも破壊する行為がエッセンスとして存在していました。

全てを壊していった先に、唯一いうことができることは次の引用です。

すべては可能となる 、という全体主義の信念が証明したのは 、すべては破壊可能であるということでしかないように見える 。(位置2732)

「すべてが破壊可能」ということだけでした。

こんな陳腐な結論を生み出すためだけに大きすぎる犠牲がありました。

 

全体主義は人の全ての領域にいきわたる

全体主義が成立するためには、政治領域の成功だけでは不十分です。大衆を煽動し、疑心暗鬼にすることが必要でした。それは秘密警察の力によってもたらされました。そして人々は分断されていきました。

全体主義が破壊するものは政治的な活動領域における自由にとどまらない 。全体主義は人々を 「孤立 ( i s o l a t i o n ) 」させるだけでなく 「孤独 ( l o n e l i n e s s ) 」にする 。 「孤立 ( i s o l a t i o n )が生活の政治的な領域にのみ関わるのに対して 、孤独 ( l o n e l i n e s s )は人間生活の全体にかかわる 。(位置2803)

アレントは人間が持つ最も根本的で最も絶望的な経験の一つに「孤独」があるといっています。つまり、人間を絶望の底に叩き込むことによって全体主義は大きなうねりとなっていきました。

 

この後、第六章「戦後世界と全体主義」では、ソビエトスターリニズムによる全体主義の解説が行われていきます。

全体主義は余剰になった資本と労働をエネルギーにしていましたがそれらが不足することで、ソビエト全体主義も衰退していったという内容です。

 

帝国主義の遺産

帝国主義の遺産としての植民地支配と 「人種 」の問題はいまだ解決されていないのである 。(位置3036)

現代にまではびこる遺産が残っています。そして、残っているからこそ、これらの問題と生活のリアリティーが結びついたときに全体主義へと人々が偏るかもしれないということは頭の片隅に置いておいたほうがいいのかもしれません。

もちろん、全体主義なんていうわかりやすい形をとらないでしょう。それ自体は魅力的で、熱狂的で、力強いイデオロギーの元に。

そんな警鐘を鳴らしてくれるのが『全体主義の起源』という本なのでしょう。